GrWin の特徴

一般的に,Windows や Linux などの UNIX 系の OS  などでグラフィクスベースのユーザーインターフェース(GUI)を用いた本格的なアプリケーションを開発するためには,オブジェクト指向やイベント駆動といったある程度専門的な知識や発想が必要になり,簡単な文字列を表示するだけでも,旧来の文字ベースのユーザーインターフェース(CUI)によるプログラミングに比べるとかなり煩雑な手続きが必要となってしまい,これらは計算機科学を専門としない人たちにとっては少々敷居の高いものといえます。

GrWin の特徴の一つは,マルチ・ウィンドウや対話処理に対応しながら,CUI をそのまま残した点にあり,グラフィクス表示やイベント処理は grwin.exe という独立したプログラム(グラフィクス・サーバーと呼びます)により行われます。GrWin によるグラフィクス・プログラミングは,かつてのDOS上のグラフィクス・プログラミングやプロッタ用のプログラミングがそうであったように,少数のグラフィクス出力用のルーチンをコールするだけでグラフィクス表示を行うことが可能で,イベント駆動的な発想は不要です。つまり,ペンや筆などさまざまな道具を手に持って絵を描くような感覚で、プログラムの実行の流れに沿った自然な発想でグラフィクス表示を行うことができるので,Windows のプログラミングに不慣れな人たちやプログラミングの初学者にとっても理解が容易であると期待できます。

また,Fortran や C/C++ で書かれた(コンソール)アプリケーションにこのライブラリをリンクしても,READ/WRITE 文やprintf 関数などによる標準の入出力はアプリケーションを起動したコマンドプロンプトに割当てられたままで,グラフィクス以外の部分には全く影響を与えません。つまり,数値出力を行うプログラムが完成している場合には,グラフィクス表示や対話処理の部分のみを書き加えることで,既存のプログラムを最初から書き直すことなしに比較的容易にグラフィクス対応の対話型のプログラムに変更することができます。同様の理由により、Visual Studio などの統合開発環境(IDE)下でも何ら設定変更することなしに使うことができます。

GrWin は、 Win32 API のさまざまなオブジェクトもサポートしていて,たとえば,さまざまな線の種類や太さに加えて TrueType フォントも使えますし,EPS形式や拡張メタファイル形式等でのファイル出力が可能なので、TeX や MS-Word など多くのアプリケーションのデータに精細なグラフィクス出力の結果を容易に貼り付けることができます。また,ビットマップ・ファイルの取り込みやクリップ・ボードへの貼り付けも可能です。得られた結果の印刷には,グラフィクス対応のプリンタならほとんどすべての機種が使えますので,そのプリンタの能力に応じた高品質の出力結果が得られることから,研究結果の清書用などにも広く使えることでしょう。

自分のプログラム(クライアント)からグラフィクス・サーバーを駆動するためには、クライアントで使用するコンパイラ・システムに適合するライブラリ・ファイル等が必要になりますが、いくつかのコンパイラ・システムについてはビルド済のインストーラが配布セットとして用意されていますので多くの場合、インストーラによるインストールの直後から利用ができます。ビルド済のインストーラの配布セットはすべてオープンソースの GrWinTk ツールキットから生成されたものですので、必要ならば自分の環境にあった自分用のライブラリ・ファイル等を生成することもできます。さらに、 GrWinTk ツールキットは  Win32 API をサポートするコンパイラシステムであればどのようなものであっても、そのシステムを使ってライブラリ・ファイルを生成することによって対応が可能です。

GrWinTk ツールキットが提供する機能のほとんどは基本的なものばかりですが、世界中で広く使われている高機能な PGPLOTグラフィクス・ライブラリの ドライバを GrWin ルーチンだけの組み合わせで実装しています。そのため、UNIX系のXwindow システム上で開発されたPGPLOT を使ったプログラムをそのまま、ほとんど手を加えることなしに Windows に移植することができますし、PGPLOT の高機能ルーチンと GrWin の多彩な機能を自由に組み合わせて使うこともできます。

GrWin のソフトウェア群はもともと,理工系大学の「計算機科学を専門としない」学生を対象とした学生実習などで利用する目的で開発された(開発中の)ものです。しかし、これまで述べてきた特徴から考えると、高校や中学の現場での実習はもちろん、プログラミングの専門家に委嘱することなしに、教員による教材作成や研究の最前線での研究者自身による研究用ソフトの自作を可能にするのではと期待しています。さらに Windows のさまざまな機能を利用したアプリケーションを手軽に作成したい人々にとっても利用価値があると思います。

 

 

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