: 微分方程式の数値解法(オイラー法)
: 微分方程式
: 微分方程式
力学と常微分方程式
既に前の章でも述べられているように,
物理学は自然現象の裏に隠れた基本原理や基本法則を探り,
自然(あるいは自然界)のより深い理解を得ることを目的としていて,
そのための「共通語」としては数学が使われる。
とくに,物理学の基本法則は「微分方程式」で表現される場合が多い。
そもそも,これから説明する微分法というのは,
あの有名なニュートンが自らが体系化した力学の理論を表現する際に
考案した5ものといわれていて,
このことからも物理学と数学の関係の深さは理解されるだろう。
「微分法」について理解するために,
まず,我々が日常的に使っている「速さ」の概念を数学的
6に表現することにしよう。
速さとは一定の時間にどれだけ進むかを表す概念であるので,
同じ時間内ならば長い距離を進んだ方が,
また,同じ距離ならばかかった時間が短いほど「速さ」は大きい,
つまり速いということになる。
そこで,「平均の速さ」を
と定義すれば,我々の日常感覚に合ったものとなることがわかる。
実際我々は,
新幹線の「こだま」が静岡から東京まで約 180 Km を 1 時間 30 分 かけて
走行したとすると,そのときの平均時速は
(Km/h) であると
瞬時に答えることができるだろう。
しかし,ここで定義した平均の速さは運転席のスピードメータに表示される速さとは
明らかに異なっている点に注意してほしい。
スピードメーターに表示されるのは時々刻々変化する「瞬間の」速さであり,
ある有限の時間間隔の「平均の」速さではない。
それでは「瞬間の」速さはどのように数学的に表せばよいのだろうか。
簡単のため,物体が直線上だけを移動している場合を考えて,
任意の時刻
における物体の位置を,
直線上にとった目盛(位置座標と呼ぶ)で表し,
その値を
とすると,
時間間隔
の間に物体が直線上を進んだ距離は位置座標の変化
の大きさで表される。
そこで,時間間隔
の間の物体の「平均の速度」を
で定義する。
ここで,
物体が直線上を正の向き(目盛が増加する方向)に進んだときには
は正で,
負の方向に進んだときには
は負となることに着目すれば,
の正負が物体の進む向きを表すことに注意しよう。
ところで,時間間隔
を限りなく小さくすると,
その間の位置の変化
の大きさも限りなく小さくなるが,
多くの場合,
が一定の極限値に近付く
7ことは想像できるだろう。
この極限値のことを
の関数
の
における
「微分係数」と呼んで,
8と書く。
は
に依存する関数なので,
の「導関数」とも呼ばれる。
関数
からその導関数
を求めることを,
``
を
で微分する''という。
したがって,
速度
は
位置座標
を時刻
で微分することによって得られ,
 |
(3) |
となる。
こうして定義された速度
の「大きさ」が
時刻tにおける瞬間の「速さ」である
9。
同様に,時間間隔
の間に物体の速度が
 |
(4) |
だけ変化したとすると,物体のその間の平均の「加速度」は
となり,
加速度
は速度
を時刻
で微分して
 |
(5) |
と書ける。
なお,(
) 式のように,
速度は位置の時刻に関する導関数なので,
加速度は位置の時間に関する「二階の導関数」であり,
 |
(6) |
とも書く。
こうして,
位置の時間変化率である速度と,
速度の時間変化率である加速度が微分を用いて表現されたことになる。
ところで,ニュートンの運動の第2法則(運動方程式)によれば,
物体の加速度(ベクトル)
は
そのとき物体に加えられている力(ベクトル)
に比例し,
物体の質量
に反比例する。
つまり,式で表せば
 |
(7) |
となる。
直線(
-軸)上の運動に限定すると,(
)式は
 |
(8) |
に置き換えてよい。
ここに,
と
は物体の加速度の
-成分と
物体にはたらく力の
-成分である。
時刻
における物体の位置を
で表したので,
時刻
における物体の加速度
は (
) で与えられる。
また,一般に,
物体にはたらく力
は物体の位置
と時刻
に依存することに
注意すると,物体にはたらく力は
と書ける。
したがって,これらをまとめると,結局,直線上を運動する物体の運動方程式は
 |
(9) |
となることがわかる。
このように導関数が関係した方程式を一般に「微分方程式」と呼び,
力学の目的の一つは,
与えられた初期条件(例えば,
における
と
の値)
にたいして(
)式のような微分方程式を解いて,
任意の時刻における位置
を求めることである。
なお,ここの例での
のように,
求めたい物理量が一変数関数である場合の微分方程式はとくに
「常微分方程式」と呼ばれている。
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tamari@spdg1.sci.shizuoka.ac.jp
平成14年2月12日