摂動論による計算の歴史は古く, 19世紀には天王星の軌道が精密に計算され, 観測された軌道が計算で求められたものからずれていることがわかり, 海王星の発見(1846)へと導かれたのは有名である。 海王星の発見の過程はまさに力学の理論体系と摂動法の組合わせによる勝利といえよう。 ところで,海王星の発見の年代からもわかるように 精密な摂動計算はコンピュータが発明されるよりはるか以前から盛んに行われていて, そのような数値計算に科学者らが費やした労力は並大抵のものではなかった ことは容易に想像できる。 実際,計算機科学の先駆者であるバベッジが計算機械の製作を始めたのは, 当時の著名な天文学者であるハーシェルと共に数値計算に用いる数表の校正を行った 際にあまりに誤りの多いことに気付いて, 人間のミスによる誤りが生じない, 機械による自動計算を思い立ったためといわれている。
現在では,種々の軌道計算の方法は既に技術として確立されていて, 各種天体現象の予報や,通常の人工衛星から, 「ひまわり」や「ゆり」などの静止衛星, さらにボイジャーのように太陽系の外に飛出す人工彗星(?)にいたるまでの 打ち上げや軌道修正に必要な非常に正確な軌道計算が, コンピュータの利用によって可能となっている。
モデルの近似解を微小なパラメタによる展開の形で計算するという 広い意味での摂動論は物理学や工学のあらゆる分野で現在でも活発に用いられて, とくに軌道計算の例のように, 値が一定値に収束するまで高次の項の計算が可能な場合には, 得られた結果は数値的には正確なものと結論でき, あいまいさのない議論が可能となる。